エコレザー事例

富田興業株式会社代表取締役 冨田常一様 インタビュー

付加価値で高めたエコレザーで世界に問う

代表取締役社長 富田常一様 マーケットのニーズをきめ細かく取り組み多種多様な製品展開をしているのが、東京を代表する革卸の富田興業だ。その取り扱い品目は、薄化粧の本格派レザーから、特殊加工した革にいたるまでと幅広い。「革は"存在自体がエコ"商品」という信念の下に展開される品質と品揃えは、国内のみならず、海外の有名高級ブランドからも高い評価を得ている。


明るい雰囲気が楽しい、ショールームのエントランス プロダクトアウトからマーケットインへ。そうしたモノづくり発想の重要性が言われはじめたのは、1990年代の高度経済成長が終焉を迎えていた頃にさかのぼる。それから約35年経った今、それを実践できている企業は多くはない。しかし、皮革業界でマーケットインのモノづくりを実践し、日本国内のみならず海外からも支持を受けているのが富田興業だ。

「お客様のご要望に合わせた製品をお届けするために、どのような革を使って、どこの企業と協力して取り組んでいくと良いかを常に心がけています」と富田 常一社長は言う。 マーケットインのモノづくりを展開するにあたって求められるのがマーケットを見る眼だ。今年で創業93年目を迎える同社は、その時代毎のマーケットの流れを見極めながら今にいたっている。4代目である常一社長も、ここ数十年で起こったニーズの変化を次のように捉えている。

「平成の始まった頃は、『プラダの出したデザインが絶対!』といったイメージを持っている方が多かったので、革の色味もデザインも『プラダと同じようなものを!』という注文が多い傾向にありました。今は、『私はこういうものがいい!』というこだわりがあり、そこにコストをかける方が増えてきたように思います」(富田氏) そうした変化に応え続け、同社の商品の裾野は必然的に広がってきた。エコレザーもそのための一つの商品だ。

革は"存在自体がエコ"商品

バッグなどに使われている、富田興業のエコレザー エコレザーに対する同社の視点には確たるものがある。「弊社で流している革自体は、エコレザー認定は通していませんが、ほぼ98%がエコレザーの基準を満たしていると思います。エコレザーの認定は通してないけれども(注:タンナーが独自に認定を受けているもの有り)、エコレザーとしてのスペックも品質も持っている革、自信を持ってお届けできる革を提供しています」と富田氏は言い切る。

顧客からエコレザー指定の発注がくることは多くはないが、日本の薬品の配合やレベルを考えると、通常の製法で革を作ったとしても、エコレザーの基準を満たすことができるものは多いとの考えが根底にはある。

同社が"エコ"と認識してスタートしている象徴的な製品がある。それは、ハンドバッグとトータルファッショングッズの企画・製造・販売を手がけるgentenへ供給している製品だ。かれこれ15年以上、同じ革を提供し続けている。

「同じような革と比較するとコストも高くなりますが、それでも、創業時からずっと使っていただいているので、gentenさんはもちろん、エンドユーザーであるお客様にも愛していただいている結果だと考えています」(富田氏)

現在は、革に限らず「エコ商品」指定の消費者は増えつつある。ただ、革の分野では「ここまでがエコで、ここからはアンチエコ」という線引きは容易ではない。革は食肉文化の副産物であり、"存在自体がエコ"商品だという側面がある。そうした、皮革そもそもの成り立ちが認識されることが少ないため、富田社長自身は機会がある度にこの視点を絶えず訴えかけているという。

"材料ブランド"としてのプライド

スポイトで水を垂らしても、全くシミができない
「FRACTALE LEATHER」
同社の特徴はその"裾野の広さ"にある。顧客の多種多様なニーズに応えられるように、あらゆるケースを想定して商品を揃えている。水をはじくレザーやスターバックスに納入しているコーヒーがしみてもカッコよくエイジングするレザーなど、エコという観点での品質を維持しながら、付加価値も同時に提供するというのが同社の哲学だ。付加価値としての人気の高いキーワードの一つに、"フルベジタブル"というものがある。

「なめしには金属を使うことが一般的ですが、そこをあえて、植物性の薬品にこだわることで、新しい付加価値を持たせたパターンですね。gentenさんに納品しているものも、フルベジタブルの製品です」(富田氏) 新しい革の提案も積極的に展開している。表面が立体的な革や、表と裏で違う素材を使った異素材のコラボレーションなどがあるが、ここ2年くらいは注目度が上昇しているという。

異素材を組み合わせて作った「FLESCO」は、表裏で異なる柄などが特徴。 「デザイン性も高いので、デザイナー心もくすぐる商品になっているかと思います」と富田社長は自信を見せる。 エコを意識するだけでなく、"初めて見るもの"を提供する。これもある意味で、付加価値の一つに違いない。「これは、"材料ブランド"としてのプライドでもありますね。"材料"にはあまり"ブランド"というイメージはないかもしれませんが、この意識が大切なのだと思います」(富田氏)

材料ブランドとしての意識を高めていくためには、日本皮革産業連合会(JLIA)のエコレザー基準を満たしていくことも一つだが、それに留まることなく、「富田興業はここが得意!」というオンリーワンのものを見つけていくことが重要だと考えていると富田社長は胸をはった。