エコレザー事例

坂本商店代表・坂本弘様、坂本美記子様 インタビュー

姫路からパリコレへ。挑戦の前提は、"エコレザーを取得している"こと。

姫路駅から車で数分。大きな川を渡ってたどり着いた住宅地の中に、黒と紺のスタイリッシュな建物がある。「Himeji kurozaN JAPAN」とゴールドの文字が躍るその建物は、坂本商店の加工場兼ショールームだ。
同社は、パリコレなどの華やかなファッション業界向けの革と、日本の古武術の一つである剣道の防具の革という、全く異なるタイプの革の製造を行っている。夫婦二人三脚で二足の草鞋を履き挑戦し続けている、坂本弘氏と妻・美記子さんに話を聞いた。


同社が日本エコレザー(以下「エコレザー」)の認定を取得し始めたのは10年ほど前。しかし、その前から環境への配慮に対する意識は強く、別の機関が提供する認定を取得していた時期もあるという。 テレビや新聞では、パリコレに出品された衣装に同社の革が採用された話や、コンテストの受賞歴についての話が取り上げられることが多い。だが意外にも、環境と人にやさしい革づくりを意識し始めたきっかけは、先代から受け継いできた剣道の防具づくりだったという。

「我々が作る防具のマーケットは子どもがターゲットなんですわ。少年剣道というやつです。
昔は、防具を作るために使っていた革に厚生労働省から『指定化学物質』とされているホルマリンが使われていました。子どもが使うのに、発ガン性のあるものが入っていたなんて心苦しくて。
子どもが使うとなったら、やっぱり発ガン性とか環境や人体に影響がある言うたら、人間としてね、違う思いがありますでしょ」(坂本代表)

「剣道の防具でガンになった人がいるかどうかの因果関係の証明は難しいんですけど、でも私たちはそういう心苦しさがあって。指定物質があってはいけないということで、4年研究して認定を取得しました」(美記子さん)

エコレザーの認定証は英語と日本語で発行されます

防具がきっかけだったものの、環境への配慮に関する認定を取得したことは、同社にとってメリットとなったそうだ。製造した革をコンテストに出す際にも、環境と人にやさしい革だと認定されていることは、大きな自信になったという。

「10年ほど前にJLIAのエコレザー認定があることを知って、それまで他の機関で認定を受けていたものも含めて移行しました。エコレザーは認定検査費用の補助もあったので、それまでよりもたくさんの革を"エコ"と認めてもらうことができました」(坂本代表)

剣道業界からファッション業界へ。現場で感じたのは、エコレザーの恩恵

東京レザーフェアへの出品が、同社の運命を大きく変えた。製造した革をフェアで紹介 したことがきっかけとなり、ファッション業界からの注目を得て、大手ブランド各社から同社の革を採用したいと連絡が入ったという。
パリコレをはじめとするコレクションで大手ブランドが採用する革には、"ある条件"があった。
それが、"環境に配慮した素材であること"だ。

「大手ブランドの皆さんと話して、環境に対する意識が素材の購入の前提なんだと感じました。欧州 の社会的空気ですかね。環境に対する配慮ができていないと、いくら素材に対して興味があっても買ってもらえない。
最初にパリに行った時に、それは感じたね。大手ブランドも、環境への負荷の少なさを素材選びの前提にしていることを、社会的意義としています。そやから、海外企業が主催する展示会の前なんかは環境にどういう配慮をしたら良いかの講義があるし、コレクションでも皆さん、"エコ"の重要性について言ってますわ 」(坂本代表)

「そうそう。どんなに良い革を作っても、エコレザーを持っていないと、土俵に上がれない。エコレザーあっての好みとか色とか。前提として『エコレザーである』ってことやって認識しました」(美記子さん)

同社の革を使って作られた洋服やカバン、靴

こうして現場で感じたことを生かして、同社ではエコレザーに対する意識を高めていったという。 その結果、次々と新しい革を開発し、エコレザー認定を取得し、大手ブランドメーカーからのオファーを獲得するというところまでが、同社のルーティーンとなった。これは、エコレザーに対する意識の高さの現れだと言えるだろう。

エコレザーがあったから実現した、ファッション業界での勝負。「これからも挑戦していくつもりです」

剣道業界とファッション業界の大きな違いは、製品開発にある。伝統的な革と製法を永く継承していく剣道業界と、毎年のように新しい革を探すファッション業界では、求められるものが違う。

坂本夫妻は、ファッション業界に進出した苦労は、毎年のように新しい革をつくるプレッシャーと納期にあるという。パリコレに間に合うように新しい革を作って、さらにエコレザーの認定を取るとなると、スケジュールはなかなかタイトだ。

「それでも、エコレザー認定の取得はこれからも挑戦していくつもりです。やっぱり、環境に配慮することは、大手ブランドに素材を購入してもらうための前提で、一番最初の基本的なところ ですから。
我々は、現場に立って体に染みついているというか。表に出していただいて、展示会に行かせていただいて感じた感覚を大事にしていきたいですね」(坂本代表)

「本当に有難いと思いますよ。エコレザーを取ったおかげで、大手ブランド会社にも注目してもらえて。
こっちが作った素材をそのままデザイナーさんが使ってくれて。デザイナーさんやクリエイターさんの手にかかっておしゃれなカッコいいものにしてもらえるのも楽しいしね。本当に有難いです」(美記子さん)

「割と大きく目立つような部分で使っていただいてるのもあるしね。『坂本さんの黒桟革を使ってるからよく売れるんです』って言うてもらえたらやっぱり嬉しいですしね。
あとは、新しい革の開発もエコレザーの取得も大変なところはもちろんありますけど、芸能人の方にたくさんお会いできてお得かな」(坂本代表)

そう言いながら、坂本代表は楽しそうに笑った。それに寄り添うように、「ドラマで有名な俳優さんがうちの革の靴を使ってくれたりね」と美記子さんも笑う。苦労の多い新製品開発の中にもこうしたやりがいや楽しみを見つけられるところが、坂本夫妻の最大の強みなのだろう。

同社では、ファッション業界で挑戦を続けながらも、本業の剣道業界へのエコレザーの普及も目指していきたいという。坂本夫妻の手によって、"エコ"の概念がより広く浸透した日本を見てみたいと、心から思った。