エコレザー事例

株式会社カルタン代表取締役 丹治藤治様 インタビュー

日本鹿革を活用し、環境保全・文化の伝承に取り組む

株式会社カルタン
代表取締役 丹治藤治様

日本の文化は鹿と共にあった。縄文時代の遺跡、記紀や万葉集といった中にも、人と鹿の共生する姿が残されている。そして鹿革は馬・牛皮などよりも加工しやすく、風土に適した皮革として、日本の歴史と文化を支えてきた。そうした鹿革にこだわりながらエコレザーに取り組む株式会社カルタンの丹治藤冶会長に聞いた。


日本人は鹿との関わりが深く、鹿産物は日本の衣食文化の源であると言われている。しかし、皮革業界において鹿革を扱う国内業者は限られており、鹿皮革の多くが海外の安価な鹿皮をなめし・加工したものである。
このような状況に対し、輸入鹿皮に相当する国産皮革資源として、養鹿による鹿皮と駆除によって出てくる野生鹿皮の活用を精力的に進めているのが丹治氏だ。
しかし、鹿を取り巻く日本の現状は厳しい。増殖する一方の野生鹿による農作物などへの被害が大きな社会問題になっているのだ。その過度な増殖を抑えるために、多数の野生鹿が駆除され、埋却して廃棄されているという現実がある。丹治氏は、野生鹿を畜産資源としてとらえ次のように言う。
「人間と鹿が共存し、鹿を資源として有効活用する流れを作りたいのです。それは、資源に感謝をしながら、資源の背景にある歴史や文化を理解することです。それには、日本の鹿は世界でも最も高品質な資源だという誇りを持つ必要があります」
鹿革をマーケットに出すためには付加価値が絶対条件になる。そのために丹治氏は国内でとれた鹿革にエコレザー認定を受け、日本文化と共に世界に発信していこうという考えだ。

「何十万頭もの駆除された野生鹿を捨てるから環境汚染になるんです。それを利用すれば環境も守ることにつながってきます。環境にやさしいだけでなく文化も伝えることができ、しかもタンナーさんも活性化する。それでその革がエコレザー認定を受ける。さらに、日本の文化をつけたものを日本の技術で製品に仕上げ、輸出していく。そうすることで付加価値をつけることができると信じています。『日本の鹿』『エコロジー』『日本の文化』。それこそが鹿三種の神器。これシカない」(丹治氏)

付加価値創造とエコレザー認定

鹿革で作られたバッグ。
鮮やかな色合いもすべて
エコレザー基準をクリアしている。
鹿革は数ある皮革の中で最も細かい繊維束を有している。細い繊維の束によって耐久性や柔軟性、しなやかさを長期間に渡って保つことができ、色褪せも少ないという特徴がある。その繊維構造が生み出す通気性や吸湿性が日本の四季に最も適していたため、古くからさまざまなところで活用されてきた。そうした鹿革の機能性は東大寺正倉院に保管されている鹿革製の品々にも見て取れる。千年以上の時を経てなお機能や柔軟性を失わず、新鮮な色彩を保つものがあるという。

こうした品質をもつ鹿革のエコレザー認定を取ることによって、鹿革ブランドを世に問おうというのが丹治氏の考えだ。

「エコレザー認定は、有害な工場排出物を出さないことで環境を守るためにあるんです。だからエコレザーは、廃棄される駆除鹿の利用という視点以上に、地球のためにも人類のためにも貢献するという意味合いがあります。世界中で環境問題が問われているときに、このエコレザー認定を取得するのは、この業界に身を置く者としての役割じゃないかと思います」

大手流通企業に納入されたエコレザー認定鹿革製品

製品化が進んでいる革小物。
すべて鹿革のエコレザーによるもの。
エコレザー認定製品が相対的に高い価格設定になることを敬遠する傾向もあって、普及までに時間を要している。皮革業界全体としてコスト問題は避けては通れない大きなテーマでもある。エコレザー認定取得にかかるコスト環境改善のために、丹治氏は次のように言う。
「エコレザー認定取得にかかるコストは少なくありません。『カルタンの実験データを使ってもいいですよ。だから、みんなでやりましょうよ』と提案しています。高い、安いじゃなくて、鹿革で売れるものを作ればいいんです」

そうして作られた鹿革のエコレザー製品を流通ルートに乗せるために解決しなければならない課題もある。全ての製品にいえることだが、販路拡大のためには継続的かつ定期的に一定の量を供給する仕組みが不可欠だ。これまでのように、鹿革が入手できた時だけ製品を作るというスタイルを続ける限りは流通に乗ることはない。

鹿革の巾着。
ディスプレイアイテムには鹿の角を使う程、
鹿へのこだわりを感じる。
丹治氏は鹿革製品を販売ルートに乗せるために牧場経営にまでのりだし、そこから得られる安定供給を武器にそごう・西武という大手流通企業への納入を実現している。

「目先だけの商売ではなく、エコロジーを意識したものでなければ流通しない時代が必ずきます。そうしたら、今のタンナーさんは行き詰まってしまいます。そうならないためにも、古来から使われてきた資源をエコロジーの観点で回す必要があると思っています」(丹治氏)

エコマーク日本鹿革製品で「森を守り、環境保全に役立ち、文化を伝承、社会に貢献」する丹治氏の取り組みに、ようやく時代が追いついてきたのかもしれない。