有限会社田村光商店田村光三 代表取締役社長 インタビュー
エコレザーに色彩を実現した匠の技で市場を拓く
有限会社田村光商店
代表取締役 田村光三様
皮革産業の集積地である台東区(東京都)で、環境や人に優しい「オリジナル革」の開発に早くから着手してきた田村光商店。最近では、「エコレザー」の開発に力を入れて、良質で新しい「エコレザー」を地元企業に供給している。同社が衣料業界向けに開発した7色のエコレザーは、余分なものを使わず勝負する匠の技の結晶でもある。
田村光商店の入口で
お迎えをしてくれる羊たち。
エコレザーというと牛革のハンドバッグや靴が頭に浮かんできますが、田村光商店としては、「体に直接触れるもの」というコンセプトの下に、シープ(羊)のエコレザーを扱っています。
そもそも、エコレザーを扱い始めたのは、ソフト感を重視した製品をエコレザーでやろうということで、衣料関連製品を製造している企業さんと新製品を企画したのがきっかけでした。
その当時は、海外の安い皮革への対応策を業界として話し合っていた頃でもありました。そんな背景もあり、身体に直接触れる製品には、(素材の)安全・安心という点を大事にしたらどうかということで、柔らかい革の代名詞でもあるシープのエコレザーに行き着いたという感じです。
牛革は主力素材ですので取り扱っていらっしゃるところも多いのですが、シープは日本の市場では流通量が少なく特殊な革なため、扱っているところはそれほど多くはありません。原材料の入手先も限られていますので、衣料業界向けにエコレザー製品を供給していくためには解決しなければならない問題点がいくつかありました。
たとえば、色の問題があります。衣料業界向けですから、できるだけカラフルな製品が求められます。様々な色を表現するためには、「なめし」をする前の「ピックル」という状態から手掛ける必要があります。染色前の段階から着色の方向を決めることが大事なのです。そうしないと思うような着色ができません。私たちは、ピックルの段階から加工していますので、7色のシープが提供できるようになったのです。
エコレザーへのこだわりが作りだした7つの色
田村社長が考案した7色のエコレザー。
衣料向けの素材を扱っていると、もっと明るい色ということを要望されます。もちろん、ピンクや黄色などの色を出すこともできますが、そうなると色落ち防止のために他の塗料を塗るという工程が必要になってしまいます。
染料にも(エコレザーの)規定がありますから、その規定に準拠したものでなければなりません。また、私、個人としても、エコレザーには余分なものを使わず、染料だけのナチュラル系の色で勝負したいという思いもあります。
今、「藍染め」の革を進めていますが、これがうまくいけば、究極のエコレザーだと思っています。ただ、日本エコレザー基準2009(規定)にある、「色が(基準値以上に)落ちてはいけない」という堅牢度の部分がクリアできていないので、なかなか先に進めないではいますが...。
色落ちしないために上塗りをしてしまったら、自然の風合いがなくなってしまいます。わざわざ科学的な処理をして色を落ちないようにするというのは、なんのためのエコレザーなんだと思います。完全に自然体でいきたいというのが私のエコレザーへの思いです。
シープ以外にも挑戦しているレザーがあります。時計ベルト用の革をカーフで作っていますが、やはりこれも肌に直接触れるため、エコレザーでやりたいというご要望を時計メーカーさんからいただいたものです。
エコレザーは世界で勝負できるブランド
エコレザーで作られたブーツ。
エコレザー基準の規則は厳しいとは思っています。ただ、その規則を緩めると、今度はブランド価値が下がる心配があります。緩い基準を通った海外の革が入ってきたら、差別化ができなくなってします。
日本の革は、海外から非常に高い評価をいただいています。中国からも日本のエコレザーが欲しいといわれるようになりました。日本の厳しい基準を通った革は高くても買ってもらえる可能性は充分あります。エコレザーは世界で勝負できるブランドに育ちつつあると思っています。
そのためには、私たちも、数多くのエコレザー製品を作ってアピールするしかありません。その一環というわけではありませんが、エコレザーで台東区の産業の活性化に貢献しているということで、田村光商店は平成23年度の「したまちTAITO産業賞」をいただくことができました。受賞した製品は上野駅のペデストリアンデッキに飾っていただいています。
私の会社では、いろいろなデザイナーさんに興味を持ってもらいたいので、1枚からでも革を買えるように在庫を揃えてあります。そこから新しい製品が生み出されればと考えています。その代表的なケースが、Japan Leather Award 2011のエコレザー部門に輝いたラ・ジョイアさんのイヤーマフです。 こうしたことが、国内にもっと多くのエコレザー製品を出し、もっと多くの人に使ってもらうようになるきっかけになればと思っています。